遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第33話 疑問符

<<   作成日時 : 2007/11/28 20:21   >>

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 喫茶店のマスターは、僕の存在などまったく気にする事無く、開店準備をしていた。
「終わったぞ」
自転車屋の店主が、店先から修理を終えた自転車を出してきた。日陰とはいえ、風とおりの悪い店の中での作業は、余計に大変な事が額の汗でわかった。
「ありがとうございました、いくらですか」
修理代を払おうとジーンズの後ろポケットに手をやると同時くらいに、自転車屋の店主がひと仕事終えたような顔で言って来た。
「お金は要らないよ」
「どうしてですか?ちゃんと払います」
店主が何故そんな事を言ったのか、まったく意味が分らなかった。けれどその言葉にあまえるわけにも行かず、財布から1000円札を取り出した。
「要らないって、だってこの自転車あんたのではないだろ」
「は、はい」
「観光客からお金もらう訳にはいかしな」
「でも、いま僕が使用しているわけだし・・・」
「い〜から ほら」
相変わらずそってない態度で、気難しい顔をして頑なに拒む店主だったが、何処となく温かさを感じた瞬間だった。
「すみません、ありがとうございました」
頭をさげる間もなく、自転車屋のおやじは店の奥に引っ込んでいってしまった。それでも僕は大振りな態度でお辞儀をして、店主の気持ちに敬意を示した。
 修理の終えた自転車をおして、喫茶店の前で立ち止まって見た。
「喫茶 飛行船か」
店先の木の看板は年月をかさねたように、店名が薄くなっていた。ずっと外に立っていたの事もあり、暑くて喉が渇きかき氷を口にしたかったけど、マスターの様相からあまり気が進まず、その場は我慢するしかなかった。
 以前よりも頑丈で硬くなったタイヤで走りながら、僕はおじさんと自転車屋の店主が言っていた事が頭から離れなかった。そんなに評判の悪い人が、堂々と表通りで喫茶店を開いていて、どうして商売が成り立つのか疑問に思った。小さい町だからこそ余計に無理と思うし、何か矛盾しているように思えた。もしくは僕が考えるより遥かにあの喫茶店のマスターは只者でなく、周りの目を気にせず店を構えている、図々しい本物の悪党かも知れない。
 そんなことよりも僕はサチを探すことが一番の目的なので、遠野の町をもうひと回りすることにした。あても無く走って見ても、道でばったり出くわす訳ないし、気軽に立ち寄れる店も無いし、サチは何処に行ったのだろうか。さっきおじさんが言っていたように、先に東京に帰ってしまったのではないかと、だんだん不安になって来た。とりあえず旅館に行って、彼女の荷物が有るか即確認したくて、自転車を急がせた。
 修理したてのレンタル自転車は、軽快に遠野の街中を走り抜けて行った。すでにこの自転車は、僕と一心同体になっていた。

                             

 
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            次回 第34話につづく・・・


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