遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第39話  気のいいレンタサイクル屋さん

<<   作成日時 : 2007/12/19 03:06   >>

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 喫茶店の外は相変わらず暑かった。さっき食べたかき氷が汗となって、僕の身体から出て行くのがわかる。
「ねえタク その喫茶店はどっちの方向にあるの」
サチはこの暑さを物ともせずやる気満々だった。
「あっちの方・・・」
投げやりな言い方であごを突き出し、やる気の無さを示したが、彼女はそんな僕を気にする事無く、意気揚々先頭立って歩き出した。
「おいサチ、歩いて行くつもりか?結構距離あるぞ」
やはり水を得た魚は、活きよいがありすぎて扱いにくい。干からびた干物の僕は、この暑さで余計に干からびそうだった。
「歩いて行けないの?」
「行けなくは無いけど、ほらそこ」
と僕が指を指した先には、さっき返したばかりのレンタサイクルの店が有った。
「さすがタク、やる気出てきたね」
その言葉に苦笑した。そう簡単に気持ちが変るはずがなく、ただ早く事を済ませ さっさと帰って来たいだけだった。
「気が乗らないから、自転車に乗るんだよ」
と言い返した僕に対し、彼女は呆れた顔をしていた。
 そんなくだらないやり取りをしながら、すぐそばのレンタサイクルの店に入っていった。
「いらっしゃい・・あれさっきのお客さんだよね、どうしたの」
一日に借りに来るお客さんがそんなにいないらしく、僕の顔を覚えていた。
「すみません、また借りに来ました」
何か照れくさく、つい謙ってしまった。
「お−そうかい、何度でも借りに来て」
お店の主人は、ニコニコしながら嬉しそうだった。
「今度は二台貸していただけますか」
すると店の主人が僕の後ろに立っていたサチを見つけた。
「あ−いいですよ、彼女の分もね」
「いや彼女ではないですから」
僕は手振りを交えて即答した。その時サチがどんな顔をしていたかは、後ろを振り向かなかったので、確認していないからわからないけど、多分苦笑いしていたと感じた。
「ま−いいから、カップルならもっといい とっておきの自転車があるから、いま持って来るね」
僕はいいとはまだいっていないのに、ニコニコしながら奥に入って行ってしまった。
「何だろね」
サチが不安そうに言った。僕も後ろを振り返りながら、首をかしげた。二人で店の奥から主人が出て来るのを、今か今かとじっと待っていた。数分後、僕ら二人の背後に人の気配を感じた。
「いや〜お待たせしました」
その聞き覚えのある声に ビックリして振り返ると、見た事のない自転車を支えながら、店の店主が笑顔で立っていた。背後から現れた事にも驚いたが、それより出てきた自転車にもっと驚いた。
「せっかくだから、この二人乗り自転車はどうですか」
僕とサチは、自転車に目が釘付けになり、どう表現したらいいか迷っていた。いままでこんな自転車見たことないし、当たり前だけど乗っている人も見たことない。困惑している僕たちを横目に、店主がここぞとばかりに勧めてくる。
「こんな自転車なかなか乗る機会ないと思うよ、それに遠野での二人のいい思い出には最高だよ」
僕はなんだか恥ずかしくなってきた。そこまで勧められると、乗ってみてもいいかなと心が揺れるけれど、乗っている僕ら二人を想像してみたら、なんだか恥ずかしいというより情けなく思えてきた。彼女は笑おうにも笑えない、何とも言えない表情で、物珍しく二人乗り自転車を見ていた。
「なかなか借りてくれるお客さんがいなくて、奥にしまって有ったけど、今日は特別に半額で貸してあげよう」
店主は僕とサチの顔を交互に見て、借りてくれる期待でニコニコしていた。僕はサチと目が合い、お互い同じ考えと感じとった。
「あの−・・せっかく出して来ていただいたのですが、やはり普通の自転車2台貸していただけますか」
「うん残念だな、お似合いのお二人に、乗ってもらいたかったけどなぁ、まあいいでしょ」
そう言った店主だが、それ程残念そうな顔はしていなく、むしろこの会話を楽しんでいるようだった。そして店の入り口に置いてある、定番の自転車を貸してくれた。
「あぁそうそう、今日二度目だから、一台分は半額にしてあげるから」
気のいい店主は、僕たち二人を気持ち良く送り出してくれた。
 ここの町には、いい人達が多いけれど、その度にあの喫茶店のマスターの顔を思い出す。そして今回借りた自転車のひとこぎが、やけに重いことを感じていた。

                          


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           次回 第40話につづく・・・


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