遠野物語 21 -若葉の季節-

アクセスカウンタ

zoom RSS 第42話 場が凍る

<<   作成日時 : 2007/12/29 17:47   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

        

 僕はこの喫茶店を訪れた事で、サチに対する役目を果たし終えた気になっていた。
「ところで、ここにいつまでいるつもり」
まったく旅の予定を聞かされていない僕は、いつ東京に帰るのか心配になっていた。特別何があるわけでもないこの田舎町に、だんだん僕は飽きてきてしまった。
「俺はやっぱり都会でないと暮らせないな」
つい僕の本音が出てしまった。その言葉に拍車をかけるように、溜まっていたものが口から出てきた。
「確かに見るものカルチャーショックですごく新鮮だし、ここの町にはいい人が沢山いるけど、自分がもしここに住むとしたら、この何も無い小さい田舎町では満足出来ないと思う」
僕があまりにも普通の声の大きさで言ったものだから、店の中に聞こえていると感じたらしく、サチはバツが悪そうな表情をした。
「私たちは、ただの観光客みたいなものだから、そんなことどうでもいいじゃない」
僕の発した嫌な空気を取り除こうと、とっさに彼女が言い返して来た。僕はそんな彼女の気持ちを気にもせず、知らん顔でしばらく窓の外を眺めていた。
 しばらくして、奥からマスターの近づいてくる気配を感じていたけれど、それでも僕は黙って外を眺め続けていた。
「お待たせしました、アイスコーヒーとアイスティです」
「あぁすみません」
マスターは相変わらず愛想の無い接客だが、彼女は申し訳なさそうに、ぺこぺこ頭を下げていた。僕らはお客なのだから、そこまで謙る必要はないと思った。
「お客さんたちは、観光で来たんですか」
はじめてマスターが独特な低い声で質問して来た。僕は胸の奥で、何故かドキリとした。ついさっきまでの強気の気持ちが、いま変に動揺し始めた。
「はい 一度この町に来て見たくて」
彼女は笑顔でマスターを見上げて答えていた。僕は見上げることはせず、アイスコーヒーのグラスの汗を、指で意味無く触っていた。
「お客さんの言うとおり、若い者はみんな都会に出て行ってしまいます」
僕たちの会話は、マスターの耳に聞こえていた。グラスの汗以上に、僕の汗の方が噴出して来た。僕と彼女は下を向いたまま、注文した飲み物をただ黙って口に運ぶしかなかった。マスターはそれ以上何も言わず、静かに奥に引っ込んで行った。三人だけの喫茶店の雰囲気は、さっきより余計に静かになってしまった。
 会話の無い二人だったが、サチが僕の方をチラチラ見始めた。多分何か言って欲しい目をしていたけど、こんな時こそ彼女のB型特有の能天気な言動が欲しかった。僕らは数分の間、無言の会話がつづいた。アイスコーヒーをいっきに飲み干し、この場から早く去りたかった。
「飲んだら帰ろうか」
僕の方から仕方なく彼女に言ってみた。サチは一瞬 間をおき、小さくうなずいたように見えた。僕は彼女が飲み終わるのを待って、窓の外を黙って眺めていた。
 早くこの薄暗い小さい空間から、明るい広い外に飛び出したかった。そしてグラスの底をストローで吸い上げる音がした。


               おしらせ 

           次回第43話につづく・・・



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
第42話 場が凍る 遠野物語 21 -若葉の季節-/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる