遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第45話  マスターが謝る

<<   作成日時 : 2008/01/12 15:22   >>

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 マスターは僕らに極めつけの一言をぶつけた。
「こんな物の為に時間を費やして、こんな所まで来るなんて、最近の若い奴らは無駄な事しかしないな・・・日々生きている事が当たり前に思っているんだろ」
サチは今にも気持ちが張裂けそうな様子で、握りこぶしに力が入っていた。
「当たり前とは思っていません、確かに自分がどうしたいのかわからない若者は沢山いますが、時に無駄とわかってはいても 行動しなければいけない時もあります。大人達は型通りの常識でしか評価してくれませんが、たとえ自分の判断が間違っていても、それをやり直す時間は私たちにはあります。私は今なら失敗しても傷ついてもいいと思っています。世の中には自殺する若者もいますが、それは負けている人間のやる事で、人に負けるのは得意不得意があるから仕方ないでしょう。ただ私は自分に負ける事だけはしたくないです。このゴミみたいなカセットテープを聴いた時に、理屈なしに行動しようと思ったから、今私はここにいるのです」
サチは胸に有った物をいっきに吐き出した。僕は同世代としてここまで言い返せるか、自分の人間の薄さを改めて感じた。マスターは黙ってタバコを吸っていた。
「お嬢さんの言うことは間違っていない、ただ失敗しても傷ついてもいいと言うが、それはまだ若いからそう言えるだけだ」
冷静に言ったマスターの言葉に、サチはすぐに言い返した。
「それの何がいけないのですか」
「若さはある意味 無謀な時もある。君達はまだ何も失っていないから、全てを知っているように物事を軽々しく言う」
サチの表情が固まった。そのマスターの言った意味は、その時はどういう事か分なかったけれど、やけに重く僕自身に響いた。
「俺も君達くらいの頃はあったけど・・大人の常識で言うわけではないが、もう少し考えて無駄の無いように生きた方がいい」
マスターは何か言葉を濁したようにも感じた。彼は僕らよりずっと大人で、いくら頑張っても人生を積み重ねた人にはかなわないと思った。多分サチも分ったようで、さっきまでの熱い物が感じられなくなっていた。
 僕はもう店から引き上げる頃と思い、彼女の肩に手を乗せた。
「サチもう帰ろう・・・」
少し引き寄せた彼女のうつむいた顔は、悲しく目が潤んでいた。
「さあ行こう」
でも彼女の肩には力が入っていて、動こうとしない。すると彼女が言った。
「そのカセットテープ、私が一番信頼していた人の物で、あなたが言うようなゴミではありません」
サチの目には涙が溢れていた。僕はそっと彼女の肩から手を離した。そんな姿を見たマスターは、少し困った表情をしていた。
「ゴミと言ったのは俺が言い過ぎたよ・・ゴメンな」
根負けしたのか、マスターは渋い顔をして彼女に謝った。
「しかし懐かしいなこのカセットテープ、俺も若い頃よく買っていたな」
マスターは申し訳ない気持ちと、その場の空気を変えようとしたのか、カセットを丁寧に手に取って見ていた。
「よくまぁ ここまですり減るまで聴きこんでいたものだ」
マスターはケースからカセットを取り出し、磁気テープの部分を目に近づけて見ていた。そして何気にケースのインデックスも取り出して見ていた。
「そうそうここに曲目を書いて、自分なりの音楽ライブラリーを作ったものだよ」
懐かしく見ていたマスターの顔は、何処となく微笑ましく見えた。
 そんなマスターの姿を見て、サチも気持ちが落ち着いきはじめた。
 これでやっとこの場所から去ることが出来ると、僕は内心ホッと胸を撫で下ろしていた。


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            次回 第46話につづく・・・


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