遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第47話  片隅の一厘挿し

<<   作成日時 : 2008/01/19 11:59   >>

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 僕はサチのように、このカセットテープには思いいれはない。ただこれが僕らをここに導いてくれたことは、素直に認める事が出来る。そしてこのカセットテープを知っている人に、僕らは会う事が出来る。頭の中で整理しているうちに、何か心の奥で揺れているのが感じる。もしかして彼女も、同じような事を思っているのか?しかし彼女の表情からして、何かもっと深刻に思っているようににも見える。
「よかったな、このカセットテープを知っている人に、やっと会う事が出来るね」
「うう〜ん それはいいけれど」
彼女は何か、腑に落ちない言い方をした。
「どうしたんだよ」
「何かとんとん拍子に事が運んで、これで本当にいいのか、少し怖いような気がする」
「その妹さんに会えば、サチの疑問も解決するし、安心して家にも帰る事が出来るよ」
僕はただ素直に自分の気持ちを言った。
「妹さんって、どんな人だろうね?おじさんと同じ歳だから、きっといいおばさんになっているよね」
彼女は妹さんに早く会いたいような言い方をしてみせた。
「マスターの妹だぜ、結構気難しいかもよ」
失礼と思いつつ、少し冗談交じりに言ってみた。
 数分してマスターが両手に何か持って、奥から出て来た。
「コーヒーいれるよ」
頼んでもいないのに、僕らにコーヒーをすすめた。そして持って来たのは、ミルとサイフォンだった。喫茶店だから最初から目の前にあるのに、何故だか分らないけれど、わざわざ奥から出してきたのだ。そしてミルでコーヒー豆を挽き始めた。
「最初に言っておくけど、俺の入れるコーヒーはマズイぞ」
注文していないうえ、そんな事言われてまで飲む気はしない。
「あの〜すみません・・僕たち頼んでないですが」
そんな僕の言葉に、ニコリと頬を動かしただけで、何も返答が無かった。でも何故だかマスターは楽しそうだった。
 そんなマスターの不慣れな作業を見ていると、サチがタイミングをみて質問した。
「あの〜妹さんはいまどちらに・・」
僕ならもう少し様子を見て、落ち着いた時に訊くのだが、彼女は思っている事をすぐに口に出してしまう。
彼はガリガリとハンドルを回していた手を休め、カウンターの隅に有る一厘挿しの花の方を指した。
「ほらあそこ」
と僕らはマスターの指す方を見た。それは小さい写真立てだった。二人とも同じ方向を見たまま、数秒動かなかった。顔は良く見えなかったけど、それがどういう意味か、なんとなく察しがついてしまった。彼女も同じ事を思ったらしく、マスターにそれ以上質問すことはなかった。
「何だよ気にするな、もう昔のことだから大丈夫だよ」
マスターは僕らに気遣い、笑顔で応対してくれていたが、それが余計に気まずく感じた。そして隅に置いて有った写真立てを手に取り、僕らの座っていた前に置いた。その写真に写っていた女性は、僕らと同じくらいの年齢で、マスターとはまったく似ていなく、初々しさ中に可愛らしさがあった。僕とサチはその写真を見て、どう反応したらいいのか困っていた。
「多分君達より若い頃のものだよ、まだ高校生だったから・・・」
彼はコーヒー豆を挽きながら、そう教えてくれた。
「もしかして この頃亡くなってしまったんですか」
「そう高校三年の冬だった」
コーヒー豆を挽き終えたマスターは、サイフォンのアルコールランプに火をつけた。僕らは黙ったまま、その火を見ていた。
 僕らは不味いコーヒーが出来上がるのを、ただじっと待つしかなかった。

          
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            次回 第48話につづく・・・




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