遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第51話  天に昇る白い煙

<<   作成日時 : 2008/02/02 14:51   >>

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 サチは同年代の女性のとして、若くしてこの世を去るという事が、どんなに悲しい事か胸に突き刺さる思いがした。
「と言うことは、おじさん 妹さんとは会えなかったのですね」
「ああ、妹は就職先も決まり、三月学校を卒業して東京に住み、真に会う事を楽しみにしていた。俺はそんな妹を見て少し寂しくもあり、うらやましくも見えた。テレビを見て嫌な事件があると、俺は妹に『ほ〜ら 東京は怖いところだぞ、行くの止めなよ』と冗談交じりに言っていた。でもあいつは決まって『真がいるから大丈夫だよ』と照れながら言っていた。でも二人は東京で二度と会う事は無かった」
「それでおやじはどうしたんですか」
僕は自分のおやじが、その時どうなったのか気になった。
「東京で一人暮らしの真は、まだ自分の部屋に電話もなくて、昼はバイト 夜はバンドの練習とほとんど家にいなかったようで、なかなか連絡が取れなかった。今の時代に生きている君達には、携帯電話やメールと言った連絡手段は有るけど、昔は電話か手紙しか手段がなかった。緊急手段として真の親友が、電報で連絡を取ることに気がついたが、家にいない真にとって緊急手段としての意味は果たさなかった。やっとその電報を手にしたのは通夜の日だったらしく、もう夕方の時点では遠野に帰ってくる電車はなかった。当時は今のように新幹線はなく、特急電車しかなかったからね。それにくわえ、あいつにはもう一つの問題があって、帰って来る電車賃がなかったらしい。バンド仲間にも頼んで見たものの、みんな同じような生活状況で、たとえ友人とはいえ、他人に貸す余裕などなかった。そしてあいつの考えた最終手段が、これからそれで食べて行こうとしていたギターを質に入れ、遠野に戻る為の電車賃を手に入れた。そして次の日の始発に乗ったとしても、こちらに到着するのが午後の遅い時間になってしまう。いても立ってもいられない真は、一睡もしないで上野駅始発の特急電車に飛び乗った。たとえ気持ちが焦っても、決まった時間にしか花巻駅に着かないもどかしさ、どんな気持ちで何時間も電車に揺られていたか俺でも分る。
 花巻駅に着いて、釜石線に乗るのが普通の方法だが、一分一秒でも早く着きたかった真は、残りのお金で遠野までタクシーを飛ばして来た。しかし火葬場の入り口に到着して、タクシーから降りて見上げた空には、すでに煙突から白い煙が天に昇っていた。俺は骨になった妹の姿を見るのがつらく、一人になりたくて外に出た。するとそこに真が涙を流して、呆然と空の煙を見ていた。最後に骨を拾ってやってくれないかと声をかけのだが、あいつはその場所から動こうとせず、ただ黙って空を見ていた。そして涙を流しながら天を仰ぎ『自分は無力でバカな情けない奴です』と俺に言い残し、長い一礼して去って行った。そのうしろ姿が、俺が最後に見た真の姿だった」
僕はそんなおやじの状況を思い浮かべていた。おやじにそんな辛い時が有ったのかと、胸がグッとしめつけられる思いがした。そしてサチはすでに静かに涙を流していた。
「そして噂では東京に戻った真は、二度とギターを持つことはなかったそうだ」
「だから・・箱の中にギターの弦とピックだけが残されていたのね」
サチは気持ちを堪えながらすすり泣く声で言った。
 そしてマスターは、気持ちが落ち込んでいる僕らに訊ねた。
「君達いつ東京に帰るんだ」
「明日帰ります・・・」
サチは少しうなだれて答えた。
「それなら明日帰る前にもう一度来なさい、あなた方が知りたがっていた、遠野物語を聴かせてあげるから」
マスターは少し考え深げに言ってくれた。僕らは複雑な気持ちでうなずいた。
 本当ならこれで僕らがこの町に来た目的が叶うのに、このような予想もしない話の流れに、素直に喜べない現実があった。


                おしらせ 

            次回 第52話につづく・・・




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