遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第52話 遠野の最後の夜

<<   作成日時 : 2008/02/06 13:10   >>

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 その後、マスターにお礼をいい、店を後にした。二人とも自転車をこぐ足は重く、お互いの気持ちに配慮してなのか、あまり言葉を交わさなかった。普段の僕なら、軽く冗談交じりの話をして、彼女の気持ちをほぐすのに、今は何もしないことがベストだと感じる。僕は彼女の後について、ゆっくりゆっくり貸し自転車屋に戻った。
 旅館に到着して、僕は自分の部屋に向かうつもりだった。
「それじゃぁ・・・」
けれど彼女は、僕を呼び止めた。
「もう少し話がしたいけど いいかな」
「あぁいいけど・・後で部屋に行くから先に戻っていて」
喉が渇いていたので、外の自販機で飲み物を二本買い、2階のサチの部屋に行こうとした。すると階段を数段上がった所で、旅館の女将さんに呼び止められた。
「あの客さん、誠に申し訳ないですが、急に宴会が入ってしまったので、いまのお部屋を換わってもらいたいのですが、いかがでしょう」
女将さんのあまりにも低姿勢で申し訳なさそうな態度に、僕は笑顔で承知した。
「ええ構わないですよ、別の部屋を用意していただければ」
「はい勿論です、ちゃんと用意してありますが、今より少し狭い部屋ですけれど、大丈夫ですか」
「ええそれは構わないです、今晩一晩だけなので寝ることが出来るなら大丈夫です」
今までの部屋があまりにも広すぎたので、これでまともな部屋で寝ることが出来ると思うと少し安心した。女将さんも何とか事がおさまって、何処となくホッとした表情をして見せた。
「大広間の準備があるので、お客さんの荷物は2階の表札のかかっていないお部屋に、後ほど移しておきます」
「それはすみません、それでは」
その時は随分と親切な旅館と思っていた。
 2階のサチの部屋に向かう間に、その僕が一晩お世話になる部屋の前で立ち止まった。
「ここか、今度はちゃんとした部屋みたいだ・・・でも確かに表札がない」
この部屋を挟んで左右の部屋には、ちゃんと部屋の名前の表札が有るのに、この部屋だけはなかった。きっとふとん部屋か物置にしてあったのを、わざわざ僕の為に空けてくれたと思った。そして僕はこの部屋を開けることなくサチの部屋に向かった。
「ほら買って来たよ」
「ありがとう」
サチは差し出した缶ジュースを手に取り、少し気落ちが落ち着いた様子で微笑んだ。
「遅かったわね」
「ああ、さっき女将さんに呼び止められて、部屋を移ってほしいと言われてね」
「ふーん、どうしたんだろね」
「なんか急に宴会が入ったみたいだけどね」
「それで今度は何処に寝るの」
「この部屋の並びの、真ん中の部屋らしい」
「今度はチャンとした部屋でよかったね」
そんな今までの、女将さんとの立ち話をサチに話してみた。
 お互い缶ジュースをひと飲みし、僕は今日の出来事からやっと解放させた気分で、ホッとひと息ついた。何せあの喫茶店に行くまで緊張しっぱなしで、行ったらいろんな事実が分り、気が休すむ暇がなかった。喫茶店のマスターは、話をして第一印象とは違い良い人に思えたけれど、やはり店を出るまで良い意味で気が抜けない相手だった。

                おしらせ 

            次回 第53話につづく・・・




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