遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第55話 幻想空間

<<   作成日時 : 2008/02/16 14:19   >>

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 気がつくと、僕は誰もいない教室にいた。太陽の光が差し込み、窓際のカーテンが風に揺れていた。目を閉じ もう一度開けると、誰もいないはずの教室に生徒が大勢いて、僕は教室の後ろから 先生の立つ教壇を見ていた。そこには青白い顔をした生徒が一人、先生の横に立っている。彼は編入して来て、初めて自己紹介しているところだった。
「東京から編入して来た藤井君です。藤井君は身体を悪くして、療養の為 親戚のいるこの遠野に越して来ました。あと高校生活も1年ですが、みんな一緒にいい思い出を作りましょう。藤井君の席はあそこの空いている所です」
と先生は藤井君を紹介した後、僕の立っているすぐ目の前の、誰も座っていない席を指差した。彼は教壇からうつむきながら、周りの視線を気にすることなく、まっすぐこちらに向かって歩いて来る。すると僕の前に立ち、今までうつむいていた顔を上げ、僕をじっと見ていた。僕はその瞬間ドキッとして、思わず目を閉じてしまった。
 怖くて目を開ける事が出来なくなり、どうしようか考えていると、人の声が聞こえて来た。その話し声は暗闇の先から聞こえて来て、次第に僕の心臓が激しく震え出した。
「今頃編入して来るなんて、普通考えられないよね」
「あいつきっと 前の学校でいじめられていたんじゃないのか」
「あんなに青白い顔しているところを見ると、登校拒否で部屋に閉じこもっていたに違いない」
「いや、おとなしそうに見えるけれど、案外悪い奴で警察のお世話になっているかもよ」
そんなクラス中の心の声が、あちらこちらから聞こえてきた。耳をふさいでも、僕の心に響いてくる。
 何かに追い詰められて、怖くてこの状況から逃げ出したくて、僕は勇気を出して目を開いた。すると僕はマンションの高い場所にいて、目の前にどこかで見たことのある奴が立っている。そいつの姿をしばらく見ていたら、嫌な汗が手の平に感じ、ハッとした瞬間僕は叫んだ。
「おい山本、山本だよな、こんな所で何しているんだ」
そいつのうしろ姿は、前に自殺してしまった山本だった。自分自身がいまどのような状況にいるのか、夢なのか現実なのか理解できなくなっていた。
「確かあいつは自殺したよな?で何故 俺の目の前に立っているんだ」
頭を痛めながら考えていると、山本はゆっくり前に歩き出した。その行動の行く末は すぐに把握できた。
「おい山本、俺だよ新田だよ、待ってくれ」
僕は山本を止めようと、大声で叫びながらあいつに迫った。しかしその声は彼にとどく事無く、山本は僕も目の前から消えていった。僕は手を差し伸べた状態で、呆然とその場に立って、どうしようも出来ない自分を責めた。
「バカやろう」
その言葉は、自ら身を投げた山本に言ったのではなく、この場に立ち尽くしていた、自分自身に投げつけた言葉だった。もう少し僕に何か出来たのではないか、もう一歩踏み出せば、目の前の同級生を救えたのではないかと悔やんだ。そんな時マスターの話を思い出し、おやじも火葬場の煙突から立ち登る煙を見て、今の僕と同じだったのではないかと思った。そう思えた瞬間 僕は身体の力が抜け、その場に崩れ落ち、もう動くことが出来なくなっていた。悔しさと情けなさで気持ちが乱れていた。握りこぶしをコンクリートの床に押し付け、残された気力で立ち上がろうとした。まだ山本は意識があるのではないか、もしそうなら今すぐに助けてやりたかった。重い身体を引きずり、飛び降りベランダの手すりに何とかしがみつき、勇気を出して下を見降ろした。その瞬間、信じられない事が起きた。僕がしがみついていた手すりが、突然溶けてフニャフニャになり、そこに全体重をかけていた僕は、そのまま山本の身体目掛けて落ちていった。
「うゎ−助けてくれ−」
何故人間はそのような状況になると、目を見開いてしまうのだろう。落下していると無音状態で身体が軽くなり、スローモーションの映像のように地面が近づいて来た。そして最後は一瞬で暗闇になり、その後自分がどうなったのか分らない。でもいま思考が有るということは、生きているのか?それと魂が意識しているのか?
 勿論死は経験した事がないが、よく三途の川を渡ると言うけれど、いまの僕は身体が凄く軽く、ただ暗闇にいるだけだった。と言う事は、僕はやはり魂になったのか・・・・


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