遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第57話  都会育ちと田舎者

<<   作成日時 : 2008/02/23 01:44   >>

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 なんという夢を見たのだろう。汗びっしょりの顔を洗うために、部屋を出て洗面所に向かった。ひっそりと静まりかえって旅館の階段を降り、いつもは感じないギシギシと言う音が耳につく。そして水道の蛇口から落ちる水を、手のひらにすくい、顔に数回かけた。そして目の前の鏡に写った、自分の顔を見た。何処と無く夢に出て来た、あの新田に似ていた。
 憂鬱な気分で部屋に戻り、変な夢を見たのは、布団で寝なかったのが原因と思い、今度はチャンと布団をひきなおした。蛍光灯の明かりを消し、目を閉じて眠りにつこうとした僕は、この狭い部屋に誰かいる気配を感じた。
「何か俺の周りを動いている」
と心の中で言ってみたものの、目を開けて確認する勇気がなかった。このまま意識がなくなって、眠らせてくれと願った。動き回るその気配が、突然僕の頭のそばで止まった。
「あっ止まった」
何が起こるのかと困惑していると、だんだんと頭が温かくなってきた。すると全身の力が抜け、僕の体が布団に沈み込んで、落ちて行く感覚に襲われた。
 すると暗闇の中から、話し声がしてきた。ゆっくり目を開けると、そこに藤井とあの新田がいた。二人は小さな商店の店先で、冷えたミリンダを飲みながら話をしていた。
「藤井は何で編入して来たんだ」
藤井はあまり答えたく無い様子でうつむいていた。
「いいよ答えたくなかったら、無理して答えなくても」
新田はビンをラッパ飲みし、気兼ねなく藤井に接していた。
 そんな二人の前を、ドロドロとしたエンジン音で、黒のトランザムが通り過ぎて行く。
「お−すげ− かっこいいな〜、おい藤井今の見たかよ」
新田はミリンダの瓶を片手に、大ハシャギしていた。それに比べて藤井は、少し馬鹿にした目で新田を見ていた。
「新田君、東京ではあんなのゴロゴロ走っているよ、僕の住んでいた近所には、ポルシェカレラRSが有ったよ」
それを聞いた新田は、ぽかんとアホ面をして言葉を失った。
「本当かよ藤井、やっぱり都会はスゲ−な、俺写真でしか見たことないぜ」
僕から見てこの新田という青年は、単なる田舎者にしか見えない。
 藤井はこの田舎者を、あまり相手にしたく無い様子に見えた。そして藤井は真剣な顔で、前置き無く話し出した。
「僕のお父さんは、東京で会社をやっていたけど、事業に失敗して人生を失った」
アホ面の新田が、その話を聞いて真顔になった。
「ふ〜ん そうなのか、でももう一度やり直せばいいんじゃないのか」
新田は藤井を勇気付けるつもりで、何も考えず真剣みのない口調で言ってしまった。しかし藤井が言った事に、僕も新田も愕然としてしまった。
「事業に失敗した責任で、両親は自殺してしまった。勿論僕も含めてだけど・・・でも僕だけ助かってしまい、そして身体の状態も良くなり、親戚のいるこの町に来たわけ。いいかな簡単だけどこんな感じで」
新田の顔色が変わり、右手に持ったミリンダの瓶が、今にも割れそうなくらい握りしめていた。
「おまえら家族はバカか、そんなことで死ぬことないだろ」
藤井は、新田が同情してくれると思っていたらしいが、返ってきた言葉に少し驚いていた。でも彼の冷静な性格が、動揺を見せる事は無かった。
「新田君それが都会なんだよ、人生の落伍者は生きていけない場所なんだ」
「それでおまえは逃げてこの町に来たと言うわけか、それでも悔しくないのか」
さっきまでのアホ面の新田の顔が、前に見たトイレの時の、真剣な表情になっていた。
「君は何を言っているんだ、悔しいとか悔しくないとか、君が考えているような、現実はそんな簡単な事ではないよ」
「何をさめた考えしてんだよ、こっちは都会に希望持って出て行こうとしているのに・・・俺は音楽で一流になって、いい車に乗って・・・そして俺は負けないよ」
「だから田舎者は困るな」
その一言に頭に来た新田は、藤井の胸倉を掴み、さめた目の奥まで睨みつけた。
「俺は試して見たいんだ、おまえの人生を狂わせたその都会でな」
「新田君悪い事は言わない、得るものも有るけど失うものも大きいよ」
新田は一歩も引かなかった。そして一言藤井に言った。
「俺は死なない」
藤井の右手から半分飲んだミリンダの瓶が、スローモーションで落ちて割れた。その瞬間僕は驚き、目を閉じてしまった。暗闇の中に、瓶の欠片がキラキラ光っていた。


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            次回 第58話につづく・・・




 


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