遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第67話 恋のはじまり

<<   作成日時 : 2008/03/29 10:09   >>

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 僕は今サチという一人の女性を、心の目で見つめなおしていた。いつも僕の領域に、ズカズカと入り込み、時には好き勝手に荒らしてくれる。時々面倒な時もあるけれど、いつも何だかんだ言って近くにいる。そんな彼女だけれど、決して嫌いではない?むしろいないと、気になる存在かもしれない?いまサチと僕は友達同士という関係だが、なぜ今こうして二人密着しているのだろう。この町の人達から見たら、普通のカップルに見えるだろう・・現にそう言っていた方もいた。今まで女性として、意識したことはなかった。僕が物心付く頃には、すでに近くにいる存在だったので、あえてこちらに引き寄せる必要もなかった。僕自身 何度か他の彼女と付き合った事はあるが、何故だかいつもサチを基準に、相手を判断した事もある。それって結構意識している事なのか・・・?
 もんもんとした気持ちの中、サチという女性をもっと知りたくなった。次第にペダルも軽くなり、彼女を後ろに乗せていることに、違和感がなくなっていた。僕らの自転車は軽快に走り続けるうちに、この遠野の田園風景の中に溶け込んでいった。この何も聞こえない空間と心地よい風、そして何種類もの様々な緑色が、僕らに見方するように優しく包んでくれた。
 カッパがのっている欄干の橋を渡り、確かもう少しで目的の福泉寺と思い、ペダルをこぐ足に力を入れた。
「よいーしもう少しだ」
と気合を入れたものの、目の前にゆるやかな登り坂が見えた。さすがにこの先は彼女を乗せて進むのは無理と思い、一旦自転車を止めた。
「ここからは歩こう」
と言ったものの、自転車を路肩に置き、ひとまず休憩を取ることにした。彼女は大きく背伸びをし、僕は土手に腰を下ろした。呼吸を整えながら下を向いていると、額から汗が落下して行くのが見えた。僕の腰に手をまわした彼女の感触が、余韻として残っていた。
「ご苦労様」
サチの心のこもったねぎらいの言葉だった。僕は声も出なく、うなずいただけの返事をした。
「この風景、昔と変わっていないのかな、世の中が切磋琢磨して新しい世の中を模索しているのに、ここだけはそんな事は関係ないようにも思える」
暇つぶしにしては、彼女が面白い事を言った。
「かわらなくていんじゃない?いくら世の中が進歩したところで、お粗末な世界はここには必要ないよ」
いままで世間に関心の無い僕だったけど、この原風景を見ていると、素直な思いがわいてくる。僕らが見ている景色の中には、子供の頃から見て来た灰色の景色はなかった。
 数分の休憩だったが、少しは疲労感も薄れた。
「よし もう少しだ、行こうか」
仕方なく登り坂を自転車を押して、福泉寺に向かって進んだ。途中途中に築数十年建っていると思われる農家や、1日数本しか通らないバスの為に立っている小さいバス停も、この風景には欠かせない演出だ。
 僕はこの道を歩きながら疑問を抱いていた。何故僕らは汗をかきながらこんな所にいるのか?この時間が無駄ではないだろうか?勢いでここまで来たが、なんの役にも立たないのではないか、でも無意味だろうが無駄だろうが、立ち止まっていては先が見えない。そう僕らは都会育ちというか、僕も含め現代の若者は、答えのないリスキーな事から避ける傾向がある。簡単に言えば無難な生き方をおくって来た。最初に喫茶店で、サチがマスタ−に向かって言っていた事が、僕にも理解出来たようにも思える。いま僕の中で、何かに挑戦する闘争本能が、密かに沸いてきているような感じがしている。この熱い路面を一歩一歩踏みしめながら、小さい目的を叶えようとしている僕がいた。
 息を切らせ歩き続けた二人の目の前に、白い門が見えた。
「やっと着いた」
僕より先にサチが叫んだ。僕は喉の乾きと乱れた呼吸で声が出なかった。到着の喜びと歩き疲れた足は、もう立っている事が出来ず、僕は引力に身を任せ石段に座り込んだ。荒れた呼吸で身体が揺れるたびに、汗が滴り落ちた。すると僕の頭に何かが落ちた。それはサチのハンカチだった。彼女は強い日差しが、少しでも僕の頭にあたらないように、かけてくれたのだ。今回の旅で初めて女性らしい接し方をしてくれた。僕は下をうつむいたまま、彼女に気づかれないように微笑んでいた。素直になれないのは僕の方かも知れない。


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             次回 第68話につづく・・・



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