遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第62話   遠野物語をもう一度

<<   作成日時 : 2008/03/12 20:29   >>

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 僕らが待ち望んでいた、曲のイントロが流れ出した。アナログのスローテンポのメロディが、少し心地良く聞こえる。当たり前だけど、現代風の曲調ではないが、決して受け入れられない事はない曲だった。飛行船のヴォーカル あんべ光俊のかすれた歌声が、何処となくせつなくも思える。やはり曲調や演奏楽器が、古さを感じさせるのは仕方ない。マスターも、遠い昔を思い出しているのか、しんみりとした顔つきで聴き入っていた。
 そして短い演奏会は終えた。マスターは役目を果たしたという面持ちで、レコード針を持ち上げ、アームを所定の位置に収めた。僕は聴けて良かったという気持ちでいたのだが、横に座っていたサチは、今ひとつ満足していなかった。するとサチは、沈んだ声でマスタ−にお願いをした。
「もう一度、聴かせてもらっていいですか」
そのサチのお願いに彼は優しくうなずき、一度閉めたレコードプレーヤーの蓋を開け、もう一度レコードの溝に針を落とした。今度は慎重かつスムーズに、レコードの溝に乗せた。そして又、遠野物語の曲が僕らの貸切りの喫茶店に流れた。彼女は静かに目を閉じて、流れる音の隅々まで、じっと聴き入っていた。僕はただ聞き流していたけど、二度聴くと曲の内容がなんとなくわかってきた。すでに彼女は、一度目に聴いた時に、気になるフレーズを耳にしていたようだ。正直言って、この手の曲は僕の趣味ではない。最初耳にした時、これと言ってインパクトがなかったからだ。しかし二度耳にすると、何故だかこの単調なメロディが、だんだんと曲の方から僕を誘い込んでいるようにも感じる。そしてレコ−ドの最後のカサカサ音で、二回目の曲が終わった。
 すると隣に座っている、サチの小さいため息が聞こえた。彼女がどういう気持ちで、ため息をついたのか、僕には理解は出来なかった。マスターが立ち上がりプレ−ヤ−に手をかけた。僕はその姿を見て、思わず声を出した。
「すみません もう一度聴かせてもらってもいいですか」
その発言に驚いたのが、マスタ−ではなく隣の座っていたサチだった。
「タクどうしたの?」
「どうしたのって、まだ聴き足りないじゃん」
サチは不思議な表情をしていたけれど、その奥には笑みがこぼれていた。
「何度でもかけてやるよ」
マスタ−はニコニコした顔で言ってくれた。マスタ−の笑顔が、僕は心の中を見られているようで、少し照れくさく思えた。
 なにやらマスタ−が、カウンタ−の隅で探し物を始めた。
「その前に、これを君に渡しておくよ」
とマスタ−がカウンタ−の上に、少し黄ばんだ封筒を置いた。
「これ何ですか」
手紙らしき物を、僕はためらいもなく手に取り、表や裏を光にかざして見たりした。
「それは君のお父さんに届くはずだった手紙だが、ポストに入れる前に妹は亡くなった」
それを聞いた瞬間、僕は雑に扱ってはいけないと思い、一旦カウンターの上に置いた。
「いつか君のお父さんに渡そうと思い、しまって置いた物だけど、とうとう真はこの町に戻ってこなかった。だから変わりに息子の君に渡す事にしたのさ、俺が持っていても仕方ないし、そうする事が妹の望みと思ってね」
それを聞いて、震えた手でもう一度手紙を手にした。俺がおやじの代わりに受け取っていいものなのか、出来るなら昨夜見た夢の中に戻って、おやじに聞いて見たかった。
「どうしようかサチ、俺受け取っていいのかな」
とりあえず隣のサチに訊いてみた。
「ウン そうしなよ」
ためらいなく答えた彼女は、笑顔でうなずいてくれた。
「わかりました、僕でよかったらおやじの代わりに受け取ります」
そう返事をして受け取ったものの、今まで開ける事のなかったこの手紙を、僕はどうするべきか、まったく考えもつかなかった。まるで校庭に埋めたタイムカプセルの中から、数十年前の物を手にすること同じだった。実際にマスタ−の妹さんとは面識もなく、まして亡きおやじから そんな昔話を聞いた事もない。皆には申し訳ないが、僕にとってまったくの他人事だった。




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             次回 第63話につづく・・・




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