遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第63話  開封

<<   作成日時 : 2008/03/15 03:24   >>

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 とりあえず手紙を受け取り、しまおうとした。するとサチが一言 口に出した。
「手紙 読まないの」
「えっ」
今の僕には、あまりにも荷が重過ぎて、時期が来たら封を開けようと思っていた。まさか今ここで読む事になるとは思ってもいなくて、僕は少しためらっていた。彼女は僕の性格を知り尽くしているので、今の心境を見抜かれていた。
「今読まなかったら、この手紙は無駄になってしまうよ、せっかく妹さんが書いたのだから、読んであげようよ」
そう言われて、一先ず手紙をカウンターに置き、僕はしばらく黙ってその手紙を見ていた。隣に座っているサチは、早く読まないかとそわそわして、僕の顔をチラチラ見ている様子が感じ取れた。とうとう彼女は、固まったままの僕に、痺れを切らしてしまった。
「どうしたのタク、読まないの」
僕はどうしていいのか困り果て、心の中で誰かに助けを求めていた。
 その様子を黙って見ていたマスターが、灰皿に残り少ないタバコを押し付け、店の奥に行ってしまった。多分マスタ−も、僕の行動に嫌気をさしたようだ。
「ねえ・・・」
隣の彼女も、いらだって来ているのが感じられた。しばらくすると奥からマスターが出て来て、手紙の横に持って来たハサミを置いた。
「ほら、これで開けな」
そう僕に言ってくれたのだが、今ひとつ手を出すことに、ためらいを感じていた。
「しょうがないな、俺が切ってやるよ」
マスタ−はそう言いうと、封筒をトントンとカウンタ−に軽く叩き、上の擦れ擦れの所にハサミを入れた。その素早い出来事に、僕は口を開けたまま、ただ見ているしかなかった。
「ここまでは俺がやってあげるから、後は君に任せたよ」
優しく僕の前に差し出された封筒の中から、黄ばんでしまった外とは違って、真っ白い便せんがのぞいていた。
 マスタ−は再び椅子に腰掛け、またタバコに火をつけて、役目を終えたと言わんばかりに、渋い顔をして煙を吐き出した。僕は恐る恐る左手で封筒を押さえ、右手のひと指し指と中指二本で、そっと中の便せんを引き出した。そして数十年ぶりに光を浴びた白い手紙を、僕は開く事もなく、黙ってサチの前にそっと置いた。
「え、何?」
サチは訳も分らず、キョトンとして僕の顔を見た。
「おやじがさ、俺の読み方では満足しないと思うから、女性の君が読んでくれないか」
ただ読むだけなら僕でも構わないが、まだこの手紙を読むだけの人間になっていないことは自覚していた。
「え〜!」
「お願い・・・」
サチは困ったような顔をして、マスタ−に目をやった。するとマスタ−は軽く頷いた。気持ちの切り替えの早い彼女は、目を閉じて軽く顔を上下させて手紙に手をやった。
「わかった、私が読んであげる」
サチは便せんをゆっくり開き、少しの間黙ってながめていた。僕はその横顔を、ただ見ていた。


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