遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第65話  空気を読めない奴

<<   作成日時 : 2008/03/22 11:52   >>

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 三人の間に少しの沈黙が続いた。誰が先に言い出すか、お互いの心を伺っていた。
 するとサチが静かに立ち上がり、何も言わず店の扉を開けて、一人で外に出て行った。そんな彼女の行動に、僕はどうしていいのか戸惑い、ただ呆然と座ったままだった。
「まったく困った奴ですね」
僕は他人事のように言い、マスタ−に同意を求めると、彼は腕を組みながらこちらを見ていた。今ひとつ彼女の行動を理解出来ない僕に対して、歯がゆく感じたのか、マスタ−は強い口調で言った。
「なにしているんだ、早く行ってやれよ」
「えっ・・・」
マスタ−の気難しい表情に、僕は言われるがまま急いで店を飛び出し、サチの後を追った。突然薄暗い喫茶店から飛び出したせいで、外の日差しが眩しく目が一瞬くらんだ。すると彼女は、店を出て左の方に歩いていた。
「おーい待てよサチ、何処に行くつもりだ」
僕は小走りで追いかけて、彼女の肩をつかみ、彼女の足を止めた。
「おい どうした」
振り返ったサチの目には、涙が溢れ出していた。その顔を見た瞬間、僕は一瞬怯んでしまい、つかんでいた手を離してしまった。何か触れてはいけない物に、触れたような気がしていた。
「どうしたんだ」
僕は心を落ちつかせ、優しく聞きなおした。
「読んでいる途中で悲しくなって来て、最後は心がはちきれそうになり、涙を我慢するのがやっとだった」
彼女はうつむきながら、悲しさに震えた声で言った。
「それで何処に行こうとしていたの」
多分彼女も目的が有ったわけでは無く、どうしようもなくただ飛び出してしまったに違いない。やはり不器用な僕には、気の聞いた慰めの言葉など出てこなかった。
 暑い日ざしが照りつける中、その場にしばらく二人で立っていた。何も言わず店を飛び出したので、マスタ−も心配していると思い彼女に言った。
「そろそろ店に戻ろうか」
すると彼女は、予想もしていない事を言った。
「私、福泉寺に行ってみたい」
「フクセンジ?・・・曲の歌詞にあったあのフクセンジのことか」
僕にはサチが何を考えているのか、まったく理解出来なかった。ただ曲の歌詞に出てきただけなのに、あても無く行く必要があるのか疑問だった。しかし頑固な性格な彼女の気持ちは、すでにお寺の方向を目指していた。そして彼女はゆっくりと歩き出した。
「おい待てよ、場所わかるのか」
「昨日 観光案内のパンフレットで見た」
観察力の優れたサチは、すでに一度遠野の地図を見ただけで、福泉寺の場所を把握していたのだ。しかし略図で書いてあるパンフレットには、方向は分っていても距離までは載っていなかった。確か先日、福泉寺の近くまで行った事を思い出し、歩いていける所ではないことだけは、僕は知っていた。しかし彼女はそれを知らない。
「おい待てよ、歩いていくつもりか」
僕の声が聞こえているはずなのに、彼女は振り返りもせず、そのまま歩いて行ってしまった。僕は彼女の我がままに、ついて行く気になれず、彼女の後ろ姿を黙って見ていた。
 先日と同じように、お互いの気持ちの違いから、僕らは別々になってしまった。所詮僕と彼女とは違うのだら仕方ないと思い、手を差し伸べる事を諦め、店の戻ろうと振り返ると、やはりマスタ−も気になったようで、外に出て遠くから僕らの様子を伺っていた。その彼が、僕に向けてなにやら合図をしていた。それはアゴを何度も突き出し、僕に行けと示しているようで、把握するまで数秒かかった。


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            次回 第66話につづく・・・





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