遠野物語 21 -若葉の季節-

アクセスカウンタ

zoom RSS 第66話  追いかける

<<   作成日時 : 2008/03/26 21:42   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

            

 遠野盆地には風も無く、僕の身にジリジリと日差しが照りつけた。何もしなくても、額から汗が流れ落ちてくる。
 ただ黙って遠ざかっていくサチと、こちらを睨むように立っているマスタ−との間にいる僕は、本当にどうしていいのか困っていた。マスタ−の言っている事も分るが、いまさら彼女を追いかける、柔軟な気持ちは僕にはない。自分との葛藤のなか、ただ汗が落ちてくる。
「おい 早く行けよ」
煮えきれない僕に対して、とうとうマスタ−が大声をあげた。
「あーもう付き合いきれないよ」
 頭に来た僕は、目の前にある昨日の自転車屋に飛び込んだ。
「すみません、いませんか」
店の奥めがけて大声で叫んだ。すると団扇を片手におじさんが出て来た。
「お〜昨日のお兄ちゃんじゃないか、どうした またパンクしたか」
「いいえお願いがあるんですが、自転車貸してくれませんか」
おじさんは訳も分らず、首をかしげていた。
「ああいいけど、そんなに慌ててどうしたんだい」
「急いで行かないといけないので」
「よし、わかった」
おじさんはゴムサンダルでぺたぺたと店を歩き、出入り口に有った真新しい自転車を用意してくれた。
「これ乗って行け、時間のかかる修理の時に、代わりに貸す自転車だから」
言い方はぶっきらぼうだけれど、瞳の奥に優しさが見えた。
「ありがとうございます、それでおいくらですか」
「いいよ乗って行きな」
そう言ってくれる事は、店主の人柄からはじめからわかっていた。
「悪いなオヤジ」
マスタ−が近寄ってきて、自転車屋のおじさんに言った。
「なんだ おまえ知り合いか」
「あ−」
「まったく、しょうがないな」
「・・・・」
「な〜おやじ、こいつはいまが一番熱いんだよ」
「今時、青春ごっこか・・・しょうがないな」
マスタ−はただ黙って、馬の耳に念仏と言った様子だった。
 他愛のない話をしている二人に一礼して、急いで彼女を追いかけた。数百メートル走った所で追いついたが、少し様子見のつもりで、気配を消しながら後をつけた。この暑さの中を急ぎ足で歩いていたせいで、彼女の首スジに汗が流れていた。
「うう・・乗りなよ、歩いていける距離ではないぜ」
軽く咳払いをして、サチに声をかけた。彼女は足をとめ、呼吸を整えるために、大きく深呼吸した。
「しかたない・・・乗ってあげる」
相変わらずの負けづ嫌いだった。彼女を荷台に座らせ、ふらつきながらこぎ始めた。
「タク大丈夫?私が代わろうか」
僕の意地でも譲りたくなくて、聞こえないふりをして、気合を入れてペダルをこいだ。この暑さと二人分の重さは、僕の発汗を加速させた。時々通る車の風を、心地よく感じながら一生懸命こぎ続ける。
 僕の運転に緊張しているのか、彼女は言葉もなくやけに静かだった。
「おいちゃんと乗っているか」
返事が帰って来ない。後ろを振り向きたくても、今の状態ではバランスを崩して倒れてしまう。もう一度聞き返してみた。
「おいサチ・・大丈夫か」
すると彼女は何も言わずに、僕の腰に手を回しつかまってきた。僕はそんな彼女の行動にドキッとした。それは彼女が、僕に身を任せてくれていると、確信した瞬間でも有った。それに今までサチといて、こんなにお互いが触れるまで、近寄ったことはなかった。何か僕のなかで、彼女に対する気持ちが、変わったようにも思えた。僕の心臓の鼓動が激しくなったのは、自転車のペダルをこいでいるせいではなかった。

            遠野物語21  心のアルバム

    遠野物語 自転車道その2.jpg



                おしらせ 

            次回 第67話につづく・・・



 

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
第66話  追いかける 遠野物語 21 -若葉の季節-/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる