遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第68話  身の潔白

<<   作成日時 : 2008/04/02 20:09   >>

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 少しの休憩のあと、僕らは福泉寺の中を見て廻る事にした。意外とお寺の中は広く、大観音堂に続く道には、日よけの為の屋根が設けられている事で、多少なれ暑さはしのげるものの汗が噴出す。大観音堂にやっとの思いで到着し、中を見ることにした。そこには高さは17mの木造としては日本一の観音様があった。この中は外と違い、少し涼しく感じる為、ただボ−と二人で観音様の顔を眺めていた。その他にもこの福泉寺には五重塔があり、お寺の興味のない僕ですら、結構見ごたえがあった。
 遠野物語の歌詞にも有ったように、あの二人の心にも僕らが見ている同じ景色があったのだろう。ただしあちらは月夜の晩だから明るさが違うだろうけれど、でも月の明かりだけで、夜にこの境内にいるのはチョッと怖いかも・・・?そんなことを思いながら、福泉寺を散策して廻った。最後にサチが言った。
「ここで願い事を言うと叶うのかな」
「さあ?」
やはり彼女の心の中にも、遠野物語の歌詞が浮かんでいたらしい。現実的な考えの僕と、ロマンティックな考えの彼女との違いがここで明らかに判った。
 僕らは最後の目的を果たし、来た道を遠野の街に向かった。僕は彼女を自転車の後ろに乗せ、ゆっくりペダルをこぎながら、もうここには来る事は無いと思っていた。次第に僕らの背後に、車が迫って来た。その車は、僕らの様子を伺うかのように、ゆっくりと後を付けている感じがする。もしここで大声をあげても、すぐには助けに来てくれそうにもない。万が一のい場合、サチだけは助けないといけない。とにかく僕は、急いで自転車を走らせた。すると後方で聞き覚えのある、嫌なサイレンの音がした。するとお決まりのセリフが聞こえてしまった。
「前の二人乗りの自転車・・止まりなさい」
僕は愕然として、素直に自転車を止め、後を振り返った。
パトカ−から一人お巡りさんが降りて、僕らに近づいて来た。
「君達、自転車の二人乗りは違反だぞ!何処の高校だ」
僕からしたら、大学生と高校生では、随分違いがあると思うが、大人から見たらそんなに変わんないのかも?
「すみません・・私達大学生です」
そう答えた彼女に対し、少し申し訳なさそうに、そのお巡りさんは言った。
「それはすまん・・それではなおさら自転車の二人乗りは、いけない事は知っているだろ」
「・・・」
僕らはただうなずいていた。
「身分証明書はもっているか」
「はい、学生証ならあります」
そう言ったサチの言葉に、僕はドキッとした。何故なら僕は学生証を持って来なかったからだ。お巡りさんが彼女の学生証を確認していた。
「サチ どうして学生証を持っているんだ」
「どうしてって、学割に使えるし、それに万が一事故にあった時にも、身分が分るでしょう」
さすが彼女の行動には、僕と違って隙がない。しかしそんな感心をしている場合ではなかった。彼女に学生証を返したお巡りさんが、ターゲットを僕に変えたのだ。
「次に君は・・」
「すみません、何も持っていません」
お巡りさんは困った顔をして、サチに訪ねた。
「君達は、恋人どうしで旅行しているのか」
このお巡りさんから見たら、確かにカップルに見えるだろうが、ただの友達と言いたかった。その質問をすると、彼女の顔色が変わる事くらい、いつものように予想はついた。しかしこの時だけは、何かが違った。
「はい、そうです・・・学生最後の夏の思い出に、この遠野に来ました」
こいつは何を言っているんだと、マジマジと彼女の顔を見た。しかし彼女は真剣だった。
「そうか、でもこの自転車だが、レンタルサイクルではないが誰のだ?もしかして盗難したのか」
一難去って又一難、肩身が狭くだんだんと僕は小さくなっていった。
「ちょっと待て下さい、最初から泥棒扱いは止めてください。この自転車はお借りした物です」
どうしてサチはこんな状況の時でも、強気で言い返す事が出来るのだろう。僕はそこまで言われたら、何もやっていなくても、その場しのぎで素直に認めてしまう。
「その貸しえくれた人の連絡先を教えて」
これにはさすがの彼女も言葉が出なかった。何故なら、あの自転車屋の連絡先など、僕らは知るはずもなかったからだ。
「すみません、連絡先知りません」
困った表情で、仕方なく答えた。
「そうか仕方ないな、もう少し詳しく話を聞くので、車に乗ってもらえるかな」
まさかこんな事になるとは思っていなかった。小さくなって隣でうなずいていた僕は、勇気を出してお巡りさんに言った。
「あの〜この自転車持って来たの僕です」
すると鋭い眼光がこちらを向いた。蛇に睨まれたカエルのように、脂汗のように顔から余計に汗が流れだした。
「二人とも車に乗ってもらいます」
もうダメだと思った瞬間、マスタ−の顔が脳裏に浮かんだ。そして意味もなく叫んだ。
「あの 知り合いがいます」
お巡りさんは、またこいつは出任せを言っていると思い、あまり真剣に応対してくれなかった。
「あ〜そうか、その人は誰だね」
「喫茶 飛行船のマスタ−です」
とにかく頭に浮かんだまま口にした。するとそのお巡りさんの顔色が、一瞬変わったようにも思えた。
「・・・あのマスタ−が知り合い?そんなわけないだろう」
当たり前だが、まったく信じていない。仕方なく最後の手段に出た。
「それなら喫茶店に電話して確認してください」
「いや〜・・・」
このお巡りさんは、何故か拒んでした。僕はもうひと押して頼んだ。
「確認してもらえれば、僕らが何もしていない事が証明出来ます」
「しかたない、電話してみる事にする」
シブシブ携帯電話を取り出し、電話を掛けた。僕はこれで潔白がはれると思い、少しは気が楽になっていた。サチもとりあえずホッとした表情をしていた。
 しばらくして一歩さがって電話をしていたお巡りさんが、次第にぺこぺこし始めた。その様子を見ていると、微かに怒鳴り声が聞こえるのが分った。お巡りさんの額から、汗が沢山出ているようにも思える。そして電話を切り、こちらを向いた。
「あ〜ぁまいったよ、ボロクソに言われてしまった」
僕らには何の事か分らず、ただお巡りさんのバツの悪そうな顔を見ていた。
「あのマスタ−苦手なんだよな・・・なんで知り合いなの」
「見た目悪い人だけれど、意外と優しいですよ」
一様はフォロ−しておいてけれど、あまり効果はなさそうに思える。
「とにかく、君達の身の潔白ははれたし、自転車の出所も分ったので大丈夫ですが、でも二人乗りは危険なので、それだけは止めてください・・・それでは失礼します」
お巡りさんの僕らに対する、最初と最後の態度の違いに驚いていた。今になってマスタ−の知名度に驚かされる。
 問題が解決して、一つだけ気になる事があった。お巡りさんに恋人同士と訪ねられた時に、いつもなら否定するはずの彼女だが、今日は何故か・・・。


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             次回 第69話につづく・・・

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