遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第69話  旅立つ者そして見送る者

<<   作成日時 : 2008/04/05 15:33   >>

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 お巡りさんの言いつけを守り、二人で自転車をおして長い道のりを帰った。
 自転車屋のおじさんにお礼を言い、喫茶店のマスターにもお別れの挨拶をした。
「また来いよ」
マスターのその言い方は、遠い親戚のおじさんに言われているような気になった。
「はい、また来ます」
と言ったけれど、それは単なる社交辞令のつもりだった。
 お世話になった宿に戻り、帰り支度をする。僕の場合少ない荷物の為、それ程手間取ること無くすぐに終えた。そしてサチの部屋に行き、時間をつぶすことにした。
「準備できた?」
そう言いながら部屋に入ると、すでに彼女は仕度を済ませ、窓から外を見ていた。
「何を見ているんだ」
「ただ風にあたっているだけ」
そう言っただけで、その場所から動こうとしない。僕は部屋の隅に座り、静かに彼女を待つ事にした。数分が過ぎて、そっとサチがこちらに向かってきた。
「少し早いけど、下に降りて行こうか」
予定の列車の時間にはまだ時間があったけど、ここでじっとしていると、帰り難くなるらしく、サチは自分の荷物を手に持ち、僕らは部屋を出た。
 1階の降りてフロントの所のソファーに座り、女将さんが来るのを待った。夕方ということもあり、旅館は夕食の仕度で少し慌しかった。旅館の外を眺めていると、いつもより人通りが多いように思える。ただ僕はそれを眺めて時間をつぶしていた。
「あ〜ごめんなさいね、待たせてしまって」
「いいえ、こんな忙しい時間にチェックアウトする私達がいけないんです」
本当ならお昼前には旅館を出ないといけなかったのだが、女将さんのはからいでこの時間まで居させてくれたのだった。
「今日は特別な日で、宿泊客も多いのよ」
と微笑みながら言った。
「特別な日って何ですか?」
サチが興味心身で訪ねた。
「あら知らなかった?今日は遠野の花火大会の日なんですよ、毎年8月15日に町の真ん中を流れる早瀬川で開催されるけれど、貴方達もせっかくだから見ていったら」
「でも列車の時間があるので・・・」
彼女は残念そうな表情で答えた。
「それは残念ね、それならまた来年来なさい、特別に安くしてあげるから、今度は二人一つの部屋に泊まれる様にね」
そう言われて、僕とサチはお互い目が見合い、少し恥ずかしいそうな顔をした。
「それでは私達はそろそろ行きます」
宿泊代を支払い、僕らは立ち上がった。玄関で靴を履いていると、女将さんが僕の顔を見て、何か思い出した様な顔をした。
「あッ・・そうそう・・夜に何か変なこと無かった?」
と女将さんが僕に訊くと、サチも何ごとかと僕の見た。
「変なことですか・・・?」
といわれても、熟睡していて何も覚えていなかった。僕は不思議そうに首をかしげて見せた。
「何も無ければそれでいいですけどね・・以前にちょうど今頃だったけど、部屋が満室で仕方なくあの部屋に泊まってもらった事があるんですが、そのお客さんが変な事が有ったと言っていたんです。詳しくは聞かなかったけど、それからあの部屋は使わない様にしていたんだけどね?なにせお盆の時期ですからね・・」
女将さん話に、背筋にゾクッとしたものを感じた。一瞬かげった僕の表情をサチは見逃さなかった。
「大丈夫?何かあった」
「いや何も・・」
表情を隠す為に、つくり笑顔で答えた。僕は夢と分っていても、あれだけリアルな内容は説明できなかった。それにあの夢はここでの思い出として、心にしまって置こうと決めていた。彼女はそれ以上、探りを入れてこなかった。
「それでは気を付けて帰ってね」
「大変お世話になりました、ありがとうございました」
彼女の一礼につづき、僕も軽く頭を下げお礼を言った。
 僕らはいつもより人通りの多い、夕方の遠野の街に出て行った。駅までの慣れ親しんだ道を、夕日を浴びながら歩いた。
「もうこの街に来ることはないな」
率直な気持ちで言った僕の言葉に、彼女からの返事は無かった。何も言わず、黙って歩いた。

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