遠野物語 21 -若葉の季節-

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zoom RSS 第70話  僕を乗せた銀河鉄道の行方

<<   作成日時 : 2008/04/09 01:10   >>

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 まもなくして遠野駅に着いた。始めてこの駅に降り立った時を思い浮かべると、この数日が短いながらも懐かしく思える。始めはこんな所に来てしまって、どうしようかと思ったけれど、今では去りがたい気にもなる。
 薄暗い駅舎の待合室で、一時間に一本の列車を待った。テレビではローカル放送局が、夕方のニュースを放送していた。僕は椅子に腰掛け、その音に耳を傾けながら、時を過ごしていた。
「県議員の藤井氏が、工事発注業者に口利きのために・・・」
そのアナウンサーの言っている名前に、僕の頭の回線が反応してテレビの画面に目が行った。その名前を聞き覚えがあり、目を閉じて自分の記憶をたどると、その答えはすぐにでた。その名前は心にしまっていた夢の中にあった。テレビに映っている藤井議員は、あの夢に出て来た、東京から転校して来た藤井君だった。そして夢の中で見た彼が、今現実にこの世界にいる。という事は、あの夢は夢ではない・・?過去のおやじの、本当の風景なのか?僕自身、夢というタイムトンネルを通って、過去に戻っていたのか?そんなはずはない、あれはただの夢だ、でもこのテレビに映っている藤井議員の顔は、確かに若き日の藤井君に似ている?
「どうしたの、知っている人」
サチがボ−と立ってテレビを見ている僕を、不思議そうな目で見ていた。政治や世の中に無関心な僕が、真剣にニュ−スを見ている姿に、違和感を抱いたらしい。
「ああ最近、いや昔にね」
そう言っては見たものの、彼女には意味が分らなかったらしく、それ以上僕に問い詰めてこなかった。世間では悪役でも、オヤジの知り合いとなると、僕にとって何処か身近に感じてしまう。あの時藤井君が言っていたように、世の中に対する苦言が、ここまで彼がどのように生きて来たのか気になった。でも今この様に、悪い意味でメディアに取り上げられていると言う事は、彼はこの数十年間あの頃のまま、冷めた気持ちで生きて来たのであろう。でも彼の人生は、所詮お金でしか解決できない運命だったと思う。
 上り列車のアナウンスが駅舎にながれた。そして僕らは荷物を持ってホームに出た。目の前に有る二本の線路から、微かに音が響いて来る。もう二度と来る事は無いと思っているが、こののどかな時間をもう味わえないと思うと、何か淋しく思えてくる。時間は止まらない事を伝えるてくれるかの様に、列車の姿が右手に見えて来る。音をたて小さい車両は僕らの前で停まりドアが開き、サチが先に乗り込み僕はその後に続く。間もなく列車はディーゼル音をうならせて発車した。
 すると何処からかドーンと音がした。それは女将さんが言っていた、遠野花火大会の始まりの合図だった。車窓の右後ろの方にドーンドーンと打ち上げられた。僕らにもう一つ思い出を残してくれているかの様に、夕景に薄い花火が散った。まるで旅立つ僕らに、エールを送っているのと、また来いとでも言っているようだ。名残惜しくも列車は停まる事無く、沈む夕日に向かって行って走った。
 僕は口数少なく窓の外を見ていた。サチは僕が疲れているように思えたらしく、気を使ってあまり話しかけて来ない。おやじも東京に行く時この列車に揺られて、僕が見ている風景と同じものを見て、何を思っていたのだろう。遠ざかる町を背に、期待と不安どちら有利に立っていたのだろう。今から向かう都会に、魅力を感じていない僕には、おやじが少しうらやましく思えた。
「この列車、銀河鉄道かな」
僕の口からこんなロマンティックな言葉は、人生の中で何度聞くことがあるだろう。
「え 何?」
窓の外を見ながら突然言った僕の言葉に、正面に座っていた彼女は聞き返した。
「それぞれの人々の夢に向かう銀河鉄道なのかな」
「そうだね、賢治も昔この列車を見ていたかもね」
うっすら笑みを浮かべ、僕を見ながら彼女らしい表現で言ってくれた。正直僕は文学は得意ではなく、宮沢賢治の事はあまり詳しくなかった。でも遠い昔の月夜の晩に、黒い煙を上げて走る機関車を、彼は見て未来を想像していたのだろ。
 広い銀河を生きて行くには、僕はちっぽけな存在に思えた。油断したら何処に吹き飛ばされるか予測もつかない。おやじはこんな小さい町から、無限の可能性を抱いて東京という銀河に一人で向かい、何を見つけたのだろう?それともながれに逆らえず、ただ生きていたのだろうか?僕はどちらに向かって生きていくのだろう?と言う他力本願ないい方をしているうちは、まだまだ何も出来ないのと同じだ。窓に写る自分の顔を、改めてながめていると、一人の情けない人間に見えてくる。


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